昔から隠れるのは得意な方だった。それもそのはず。家の近場には裏山という最高の立地があり臆病者のヒューは1人ではあそこまで行けない。病弱なシェリアも追いつけるはずもなく、隠れん坊は常に俺の一人勝ちで終わる唯一の遊びであった。いつもの約束。遊びに勝てば夕飯のおかずを一つ多くヒューから譲り受けることが出来るのだ。その為に勝つことが既に決定されている隠れん坊が俺は大好きだった。今日だってそうだ。今日の鬼であるソフィはもしかしたらここまで来てしまうかもしれないけれど、ヒューが先に見つかれば俺の勝ちに変わりはない。裏山の奥の木、ここがいつもの定位置。夕頃になるまで何をしていても、寝ていてもいい。以前夕頃を過ぎ、時計の針が12を指す頃に帰った時は父親に酷く怒られた苦い記憶もあるが…それもいつものことだった。全て慣れてしまったことだった。


「ふふ、楽勝、楽勝」


たまには1人になることも良いではないか。花の香りが鼻腔をくすぐり眠気を誘う。少しだけ、少しだけ。きっと今日は、鬼のソフィが迎えにきてくれるであろうから、少しだけーーーー。まとまらない頭でそんな楽観的なことを考えて、目を閉じる。しかしそれも束の間。誰かに手を引かれたのだ。大きな手。大人の手。強く引かれて、痛い。ソフィ、。違う。弟でも、幼なじみでもない、黒くて、大きな手。最後に見た景色は口元を抑えられた布によって全てを遮られた。反転する世界で俺は遂には呼吸すら耐えられなくなった。最後に聞いたのは、決して聞いたことのない、だけど何故かとても懐かしい声。やけに楽しそうな。あ。俺は。鬼に。捕まったんだ。





「みーつけた。」










隠れんぼう





「兄さん、兄さんどこ」
ヒューが泣きながら兄を探す。もうとっくに時計の針は次の日を刻んでいて。いつもなら夕飯時には自らの足で帰ってくる兄が、今日はいつまで経っても帰っては来なかった。どうせまたどこかで寝ているんでしょう。幼なじみの言葉に安心したのもつかの間、待っても待っても、遂には明くる日になっても兄の姿は無かった。家も、街も、裏山も。思い当たるところは全て探して。それでも見つからない。神隠しだ。二日、三日、一週間。探す場所も尽きてきた頃に街の誰かがそんなことを呟いた。見つからない、見つからない。父と母は絶望し、シェリアは家からでなくなり、ヒューは毎日声をからして兄を求めて泣き、ソフィはただただどこかへ消えた。いつもと同じ隠れん坊のはずだった。はずだったのに。鬼に捕まったらもう帰れない。本当の鬼は誰だったのか。街の誰もがそれを知る術はもう無くなった。だって。約束だもんな。隠れんぼうに負けてしまったら、鬼が美味しく食べるって。




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